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小泉清子

清子の思ひで

第十話 コンデェイションとコンディション

コンデェイションとコンディション 昭和六年四月に入学できた女学校(東京府立第一高女)へ五年間、私は徒歩で通い続けた。下谷上車坂から、浅草七軒町まで、三、四十分はかかった。なるべく静かな道を選んで歩いた。試験のとき暗記するには好都合だったからだ。省線(現在のJR)の御徒町駅から臨むことのできた時計台アルモンド・タワーのそそりたつ校門に近くなると、白のブラウス、紺サージのジャンパーの制服姿に、校歌からとった雪の結晶を形どった校章ををつけた女学生姿がにわかに多くなる。下町から通学する生徒はほとんどいないから、校門近くまではたいていひとりなのもかえって有難かった。

入学してから、びっくりすることが幾つもあった。第一に、一歩校内に入ると、三足の靴を必要としたことだ。教室、廊下用の茶色の靴、校庭用には黒靴、中二階に観覧席までついた天井の高い体育館では白いズック靴である。なお、ついでに書くと、掃除の際は白の割烹着、マスク、頭には手拭いを被った。T・P・Oを考慮した処置だ。生徒自身が拭く窓ガラスはつねにピカピカ、校内はすみずみまで塵ひとつなく清潔が保たれていた。

第二は、授業開始前の瞑目だった。一瞬、全校内からヒタと音が消えて静寂が包み、座禅を組む心地になる。やがて先生の足音がコツコツと聞こえ、教室に入られる先生を迎え、一堂起立しての朝の挨拶をする。

第三は、スポーツが盛んなことだ。校庭に体育館に、休み時間も放課後も生徒があふれ、バレーやバスケット、陸上では、当時有名な日本記録を出した寺尾姉妹を生んだスポーツ校の名を馳せた女学校だった。私は、バレーに打ちこんだ。選手にも抜擢されたが、背が低いので後衛だった。ある日、思い切って強いサーブを打ったら、とんでもない方向に球がとんで、たまたま通りかかった体育の先生の顔にもろに当たってしまった。「シマッタ」、がもう遅い。早速教員室によばれて規程の場所でやらなかったことを、ひどく叱られた。打たれた顔の痛みも加わって、先生は鬼のように怒った。深く深く頭を下げて早々に退却する。大勢の先生の視線が、いっせいに私に注がれているようで、私の顔も火のように赤くなった。

第四は、皇后陛下行啓であった。天皇が現人神として崇められていた当時として異例のことだった。三ヶ月も前から全校すみずみまで大掃除、お歩きにならない場所まで浄められた。生徒の一人がチフスに患ったとかで一時中止説が流れたが、どうやら市川校長の政治力(?)によってか、予定通りお出ましになった。真夏の暑い校庭に生徒は二時間も前から整列、やがて市川校長のご案内で、校庭にしつらえた屋根をおおった壇上にお上りになり、静かに会釈なさった。真白い裾長の絹のドレスに真白い長手袋、帽子はつばが広く、横からのぞく白い羽根が得もいわれね年気をただよわせている。世の中にこんな美しい方があるのかと、目を疑った。いつも張切っている市川校長も、この時ばかりは緊張して堅くなってみえた。各教室の授業、生徒の作った作品を丁寧にご覧になって、無事お帰りになった。私はまだ一年生だったが、ローマ字のペン習字が、閲覧室の片隅に飾られていた。

  • 第一話 昭和二十二年九月二十八日、大安の日、「鈴乃屋」は誕生した。
  • 第二話 紅絹に感ずる女の業
  • 第三話 震災のあとの七五三
  • 第四話 小学生の頃
  • 第五話 馬とび
  • 第六話 麦ご飯のお弁当
  • 第七話 母
  • 第八話 二足のわらじ
  • 第九話 女史になれ
  • 第十話 コンデェイションとコンディション
  • 第十一話 不合格

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