鈴乃屋

70年、そして一歩

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小泉清子

清子の思ひで

 

山のような製品が毎日生産された。そしてどんどん出荷されていった。もともとが陽性の父は、ときどき店中響きわたる大声で笑った。私も久しぶりの大声を心から嬉しく聞いた。婦人洋服の下着は当時では全く珍しく、職業として少し恥しかったが、売れてくれればわが店の不況を救ってくれる福の神だと思った。

しかし、福は長く滞在しなかった。非常時色濃くなった時代は、この新しい洋装下着を受け入れるには、余りに早すぎたのだ。戦争の火がくすぶりかけている不安定な社会の空気には馴染まなかった。いまにして思えば、すばらしい先見の明であったと思う。新製品の流行は、短期間に花開くも第九話 女史になれのではなく、ずいぶん以前に、血の出るような犠牲のもとに成功するという実例を、まざまざと教えられた。

新製品が逆流にあって押し流されていくというみじめさは、筆舌につくすことはできない。喜びも束の間、またもや父と母の苦難の時代は容赦なくやってきた。「商売ってたいへんなものだ」、私の心に深く深く刻みつけられたのは、この現実だった。

父母に少しでも負担をかけないことが、子どもの私の役割だと思った。月謝の高い女子大はすっぱりあきらめた。師範なら月謝がいらないで先生になれる。師範にいこうと決めた。試験勉強には、参考書を欠かすわけにないかない。「本代」といえば喜んで出してくれるのはわかっているが、そうだ、上野図書館にいけばいくらでも本はあるではないか。日曜日には朝早く、図書館の列に並んだ。

ちょっとでも遅くいくと、もう締め切られていて、前の人が出てくるまでは入れない。したがって、朝は七時頃から並ぶのである。いくらでもある本の中で勉強する心地は、大船に乗った安心感と、周囲の人たちが真剣になって、少しの時間も無駄にしない勉強ぶりがいい刺激になった。一室に二百人くらいの女子の学生たちが、少しのざわめきもなく、専念して勉強する雰囲気は学びの園のようで嬉しかった。日曜日毎の図書館通いが無性に待ち遠しくなった。

上野美術館の前の噴水を通り抜けると、国立博物館が厳然と立ち並んでいる。左へまわると芸大がある。その手前を右に行くと左側に図書館があるのだ。その先が寛永寺である。文化と歴史の威容をひたひたと肌に感じながら、歩く道は別世界のようだった。金持がなんだ、貧乏がなんだ。経済的な苦しみは下界で起こる些事に思えた。若い将来と大きな夢が、胸をふくらませた。

私は立派な教師になって、たくさん、たくさんな生徒を立派に育てるんだ。何百年も経たであろう樹木の下を歩く、小さな体の娘の心は、大きくふくらんでいた。

あの頃の日本は?

世界恐慌が日本にも波及。
映画「大学は出たけれど」(小津安二郎監督)公開。

  • 第一話 昭和二十二年九月二十八日、大安の日、「鈴乃屋」は誕生した。
  • 第二話 紅絹に感ずる女の業
  • 第三話 震災のあとの七五三
  • 第四話 小学生の頃
  • 第五話 馬とび
  • 第六話 麦ご飯のお弁当
  • 第七話 母
  • 第八話 二足のわらじ
  • 第九話 女史になれ
  • 第十話 コンデェイションとコンディション
  • 第十一話 不合格

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